今年も物流業界にとって最繁忙期となる年末が近づいて参りました。
昨年の年末は荷物を投げる配達員の映像が流れたり、物流がパンクして荷物が遅れまくったりと宅配業界の熾烈な現場が明るみになった事も記憶に残っていることでしょう。
今年は20数年ぶりに宅急便の基本料金値上げがあったり、 総量抑制をする方向になったり(これは実現しなかったようですが)、運送業の働き方についての話題の多い年でした。
そこへ来てこんなニュースが届きました。
繁忙期の年末に向けてヤマト運輸は時給2,000円と破格の時給でアルバイトを募集するようです。
13年間佐川に勤めていたので、辞めた身とはいえ運送業界の話題については思うところがあります。
12月の運送業は忙しい
運送業に限らず12月はどの業界も忙しいとは思います。
運送業は12月は他の月に比べて物量が1.5~2倍になります。
何が増えるかって言うと、個人向けの荷物でお歳暮やクリスマスプレゼント、歳末セールの通販の荷物、カニなどお正月用贅沢品などがグッと増えます。
さらに商業貨物もめちゃ増えます。12月はボーナスが入ったりするのでお店でも商品が良く売れるんですよね、商品が良く売れると運ぶものも増えるわけです。加えてメーカーなどが正月に休む分を年末に前倒しで送ってくるのでその分も荷物が増えるわけです。
正直言って1日では配りきれないほどの荷物が到着します。配りきれないからと言って残していくと、翌日もそのまた翌日も配りきれない位の量の荷物が到着するので根性で配るしかないんです。
バイトが運転して配達していいクロネコヤマト
ニュースにもあるようにヤマト運輸が募集するアルバイトは運転手です。
ヤマト運輸はアルバイトにもトラックを運転させるようです。
時給2,000円は破格の好条件
時給2000円で募集するようですが、時給2000円に見合う働きをしてもらおうと思ったら1時間に最低20個は配ってもらわないと採算が取れないです。
しかし始めて1ヶ月に満たない新人アルバイトが1時間で20個の荷物を配ることは不可能です。
ベテランでもよほど調子よく配達できないと20個は配れません。
新人なら1時間に10個配れれば良いほうでしょう。
1時間20個はかなりの無理難題
ベテランでも1時間で20個配達は難しいを理解するために、ここで1件の配達にかかる時間をみてみます。
配達の流れとして、
1.車で移動する
2.荷台から荷物を探して取り出す
3.インターホンを鳴らして出てきてもらうのを待つ
4-1.在宅していれば荷物を渡して受領印をもらう。代引きならお金のやり取りが発生する。
4-2.1~2分待って反応が無いなら不在票を投函する。
5.次の配達先を確認して1に戻る
1時間で20個配るためには1個あたり3分しか時間がありません。
配達先の距離によりますが1の移動が1分以内で終わるところばかりではないです。信号待ちとか渋滞とかで1の移動だけで3分以上かかることもあります。
2はベテランはすぐ荷物を取り出せますが、新人はどこに荷物を置いたかわからなくなりここでも時間がかかります。
3.4はお客さん次第です。サッと出てきてくれてすぐ判子を押してくれる人、お金もお釣りがいらないように準備している人の様な時間の掛からない人もいれば、なかなか出てこないで不在票を投函しようとした時に出てくる人、代引きを注文したことを忘れて財布探しからする様な時間のかかる人もいます。
5もベテランは伝票をみただけで次に移動できますが、新人は地図を見ないといけないのでここでも時間がかかります。
1個3分で配るには1~5が全てスムーズに進まないと難しい事が理解してもらえると思います。
1時間に20個配ろうと思ったら、移動がずっと短い距離で信号などに捕まらずに、ずっと不在がなく、すぐに出てきてくれるお客さんかつお金も用意してくれている場合でないと無理なんです。
時給2,000円は採算度外視
ベテランでも厳しいのに新人に1時間20個はかなり難しいと言うか不可能。
時給2000円での募集はそれに見合う働きを期待しているわけではなく、ただ単に増加する荷物に対して赤字でもいいので配達人員が欲しいと言う1点でのものなのです。
採算度外視でまさにネコの手も借りたいってやつです。
ヤマト運輸は採算よりも配達を待つお客様に荷物を届けることを優先しているといえます。
佐川急便はバイトに運転させない
佐川急便は年末だからと配達員のバイト募集をしないのです。
もっともこれは僕が在籍していた5年前のことなので今は変わっているかもしれませんが。
募集をしないのにも当然理由があります。
佐川はドライバーを急に増やせない
佐川急便で運転職に就くには、
1.1週間の泊まりこみのドライバー研修を受ける
2.社内資格を持った指導員の添乗で20日乗務する
3.運行管理者の検定試験で合格する
のステップが必要になります。
佐川急便は月9日休み(僕が在籍当時で今は増えているかもしれません)があるので、1週間の研修と20日の添乗指導を考慮するとドライバーとして働くのに最短でも1ヶ月半はかかる計算になります。
これが佐川が急にドライバーを増やせない理由なのです。
交通安全を第一に考えている
佐川急便が運転職に就く人に対してここまでしているのはもう交通安全を第一に考えていると言う他はないですね。
20日の添乗指導で運転職に就けて大丈夫な人間かどうかを見極めています。
実際僕が在籍中にも添乗指導中に運転職に不向きと判断されてドライバーになれなかった人は何人もいます。
それも当然といえば当然な話で仕事で運転すると言うのはプライベートで車を運転するのとは全然違います。
お客様からの催促や時間指定荷物などで時間に追われる中で運転するのはかなりのストレスです。
時間に追われ焦るあまり事故を起こしたではシャレになりません。
ですから運転職に就けて大丈夫なのかの見極めと共に運転職の心構えなどの指導を20日間という時間をかけておこなっています。
バイトに運転させない理由
バイトだから安全運転ができないというわけはないと思います。
ですが社員には運転職に就けるのに20日の添乗指導をしているのにバイトにはせずに運転職に就けるわけにはいかないのは道理です。
12月にドライバーをやってもらおうと考えたら研修と添乗指導期間を計算して10月には雇っていないといけません。
そして20日間も添乗させていると添乗員のコストもかかります。
添乗員も新人がいない時は普通にドライバーとして働いていますから、添乗指導期間はドライバーとしての仕事はできません。
運転職を一人就けるのにかなりの時間とコストをかけているのですが、それだけのコストを年末のみの1ヶ月ぐらいのバイトにかけるのは合理的ではないですよね。
佐川急便がバイトに運転させないのは、安全運転できるかの問題と指導するコストの問題が理由です。
届けるを優先するヤマトと交通安全を優先する佐川
ヤマト運輸が交通安全を軽視しているとは言いません。
当然アルバイトにも運転教育はしているでしょう。
バイトに運転させない佐川とは重要視しているベクトルが違うだけといえます。
一顧客としたら荷物が届かないのは困りますが、もし家族が運送会社と事故にあったらと思うと交通安全は第一に考えてもらいたいと思うのも当然の気持ちです。
かと言って佐川くらい運転指導をしても事故を起こす時は起こしますし、ちょっと佐川のドライバーへのステップは過剰じゃないかとも思います。
また佐川急便は年末に向けて集荷依頼を前日までの予約制にすると発表しています。
年末繁忙期における集荷受付運用の一部変更...│重要なお知らせ│佐川急便株式会社<SGホールディングスグループ>
この様子だと佐川急便は今年の年末も大混乱しそうです。
確実に届けたい、届けて欲しいならヤマトを使う方が良さそうです。
簡易でも良いので宅配ボックスを設置してあげて宅配ドライバーさんに少しでも助けになればと思います。